QCA

fsQCAを含めて、QCAについては、すでに多くの解説書が出ている(B.Rihoux, C.C. Ragin (2009), I.O Pappas and A.C Woodside (2021))おり、日本語で書かれた解説や、翻訳本も出版されている。(石田ら2016)。

QCAでは、データをある結果が生じる条件として捉えている。これは、回帰分析など一般に行われている数量分析法とは、大きく異なる点である。数量的データ分析では、説明変数と被説明変数(結果)の相関性に注目して、その関係性を、一本の式でとらえて全体を説明する。説明変数と被説明変数が正の相関をしていれば、被説明変数の値が高いのは、説明変数の値が高いためで、被説明変数の値が低いのは、説明変数の値が低いためであり、負の相関をしていれば、被説明変数の値が高いのは、説明変数の値が低いためであり、被説明変数の値が低いのは、説明変数の値が高いからである。いずれにしても、あることが起こることとあることが起こらないことは、何かが高いか低いかが原因で、対称的に説明される。QCAで問題にしているのは、どのような条件の組み合わせが、結果を招くのかということである。反対に、どのような条件の組み合わせが、結果を招かないのかという議論も可能である。ときには、結果を招く条件と結果を招かない条件が非対称になることがある。こういう現象は、世の中にしばしばある。例えば、或る少年が成績が良いのは、よく勉強したからであったとしても、別の少年が成績が悪いのは、勉強しなかったためではなくて、元々学習障害があったのかもしれないないし、家に帰って働かなくてはならなかったからかもしれない。教科書が買えなかったからかもしれない。上から下まで、一つの現地で説明しようとすると、本質が見えなくなることがよくある。社会科学ではこういう分析が重要である。こういう場合、多次元の現象を重回帰分析に集約するのではなくて、条件の組み合わせが、何を招いたのかを分析する方が、より本質がわかるかもしれない。そういう意味でfsQCAを始めとする、QCA(Qualitative Comparative Analysis)には、重回帰分析を中心とする、従来の数量分析ではとらえられない現象を捉える方法としての期待がある。

おそらく、それが、多くの解説書が出ている理由である。しかし、それらの解説書の多くは、極めて頼りないものである。歴史的経緯の説明だけが続いて、本質的な論議、基盤となる数学的な説明がほとんどない。そのために、分析法にどのような意味があるのか、門外漢には全く分からない。例えば、QCAの利点として、データー項目に対して、サンプルサイズが小さい場合にも、結果を出せることがあげている解説書がある。確かに、データー項目に対して、サンプルサイズが小さい場合、重回帰分析はできない。これは、数学上の問題である。だが、確かに、データー項目に対して、サンプルサイズが小さい場合に、QCAを行って、その結果に信頼性があるかという問題は当然ある。もし、サンプルサイズが小さい場合に、特定の条件の組み合わせで、結果が説明できたとしても、元々、関係のない、項目が含まれたいただけかもしれないし、小さなサンプサイズで、その組合せに該当する結果が多かったとしても、それを一般化できるかどうかは怪しい。つまり、QCAでは、分散比の検定のような、統計的な有意性を検討する一般的の方法が確立されていないというだけの話である。QCAでも、統計的な信頼性は意識されていて、被覆度を分析結果として示す。これは、結論の信頼性を意識しているのだが、統計的に考えれば、1/1=1.00と10/10=1.00の被覆度の意味が違うことは常識だろう。こういうところの論議を見ると、従来のtutorialは極めて頼りない。しかし、fsQCAには、私たちの分析に新しい視点をもたらす可能性がある。むしろ、私たちとしてはfsQCAを使いこなしていきながら、その限界性と有効性を認識し、従来の数値分析の手法(特に相関分析・主成分分析)と組み合わせて、新しい分析方法として、fsQCAを手法的に完成させるということが求められているのだと思う。

 

fsQCAは、従来の数量的解析ではとらえられない視点を我々の分析に持ち込む可能性を含んでいる。その一方で、未解決の問題がいくつかある。特に、数値データを、その条件に属する「度合い(membership score)」に変換する操作(Calibration)には、大いに問題がある。そのような問題点と可能性を理解した上で、fsQCの手法を学ぶべきである。本解説では、初めに、従来の数量的解析法で、どのような議論が展開できるのか、統計的な評価も含めて解説した後に、QCAの手法(csQCAとfsQCA)の数学的な基礎を説明し、具体的な事例について、実際にcsQCAとfsQCAを試行してみる。最後に、QCAが今後解決しなければならい問題点を指摘する。

 

目次

 

I. 序章

I-1.  経緯と内容

I-2.  何故、fsQCAなのか

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II. 数量的解析の試行

II-1  材料

II-2  総当たり相関解析

II-3. 距離行列とデータの空間的位置関係(MDS)

II-4. 主成分分析

II.5. 回帰分析

II.6. 因子分析

II.7. 数値的解析結果の整理

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III. 二値的論理(集合論)とcsQCAの試行

III-1. 本章の内容

III-2. 集合論とブール演算・真理表

III-3. 真理表の使い方

III-4. Lipsetの学説の検証を題材としたcsQCAの試行

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IV. fsQCAの考え方とやり方

IV-1.本章の内容

IV-2-1. Fuzzy operationとメンバーシップ関数

IV-2-2. Fuzzy setにおける十分条件と一貫性(consistency)

IV-3. fsQCAの試行。

IV-3-1. 戦間期のヨーロッパの分析

IV-3-2. Lipsetの学説の検証

IV-4. fsQCAの総括と蛇足(全く関係のない感想文)

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V. メンバーシップ関数に関する考察

V-1.残された課題

V-2-1. シンメトリックな確率分布(正規分布)を使ったメンバーシップ値

V-2-2.  fsQCAの総括

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用語 最小化・単純化、 キャリブレーション整合度・一貫性被覆度

 

資料

Excel record

R script record    Interwar2 Interwar Interwar3 interwar5 Interwar4 interwar6

 

参考文献

B.Rihoux and C.C. Ragin (2009) Configurational comparative methods. Qualitative comparative analysis (QCA) and related techniques, Sage, Thousand Oaks and London (2009) O. Pappas and Arch G. Woodside(2021): Fuzzy-set Qualitative Comparative Analysis (fsQCA): Guidelines for research practice in Information Systems and marketing, International Journal of Information Management, Volume 58, June 2021, 102310

石田洋ら(2016): 質的比較分析(QCA)と関連手法入門. B.Rihoux and C.C. Ragin (2009)の翻訳、晃洋書房、京都